写真2.チョウモドキの虫体(メス)

(写真提供:森川 進(1)、志村 茂(2))

または

写真1.チョウモドキの寄生を受けたアマゴ。体表に寄生虫による食み痕がみられる。

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病原体名 Argulus coregoni(チョウモドキ)
分類学 節足動物門、顎脚綱、鰓尾目
宿主名 ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、ヤマメ(Oncorhynchus masou mosou)、アマゴ(Oncorhynchus rhodurus)、アユ(Plecoglossus altivelis)、キンギョ(Carassius auratus
病名 チョウモドキ症
寄生部位 体表
肉眼所見 体表に大きさ1 cm程度の虫体が観察される。寄生部位には炎症および出血が見られる。多数寄生した場合には、体表の傷にカビが付着して水カビ症を併発することもある。
寄生虫学 寄生性の甲殻類で、冷水性の淡水魚の体表に寄生する。体は扁平で円形、雌の体長は7.0-11.1 mm、雄では7.0-9.3 mm。かぎ爪状の第1触角と、吸盤状の第2小顎で宿主の表面に付着する。また、胸部に良く発達した4対の遊泳脚が存在し、遊泳力を持つ。雌は、産卵に際して宿主から離脱し、池の壁面や水草の上に卵塊を生み付ける習性を持つ。東京都の奥多摩地方における観察によれば、産卵期は7-12月であり、冬には親虫は死滅し、越冬するのは虫卵のみであった(Shimura, 1983)。虫卵は20℃においては5週間程度で孵化する。
病理学 吻状の口の直前にある刺針を宿主に突き刺し、刺針の基部にある毒腺から毒液を注入することにより、漏出した体液を摂取する。そのため、寄生部位は炎症を起こし、出血する。ヤマメ1才魚が数百虫体の寄生を受けた場合、出血と寄生虫の吸血により赤血球数やヘモグロビン量が低下したという報告がある(志村ら, 1983a)。また、チョウモドキが寄生したヤマメでは、せっそう病に罹りやすいことが知られている(志村ら, 1983b)。
人体に対する影響 人間には感染しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 日本には、チョウモドキと近縁種のチョウ(Argulus japonicus)も生息する。チョウモドキが冷水性淡水魚に寄生するのに対し、チョウは温水性の淡水魚に寄生する。両種は、チョウモドキの方がやや大型であり腹部の先端が尖っているのに対して、チョウの腹部が鈍端であることで区別できる。これまでに、両種が混合寄生した例は知られていない(小川, 2004)。
その他の情報 淡水域のサケ科魚類の寄生虫として古くからよく知られている。対策としてトリクロルホンを用いた薬浴法もある(井上ら, 1980)が、薬事法で認可されていない。また、池の下層や、黒色や赤色の板を好んで産卵する習性を利用した殺卵法も有効である。すなわち、養殖池に板を沈め、生み付けられた虫卵が孵化する前に池外に取り出し、乾燥させて虫卵を殺す。
参考文献 井上 潔・志村 茂・斉藤 実・西村和久 (1980): トリクロルホンによるチョウモドキの駆除. 魚病研究, 15, 37-42.

小川和夫 (2004): 大型寄生虫病. 魚介類の感染症・寄生虫病(若林久嗣・室賀清邦編), 恒星社厚生閣, pp.381-405.

Shimura, S. (1983): Seasonal occurrence, sex ratio and site preference of Argulus coregoni Thorell (Crustacea: Branchiura) parasitic on cultured freshwater salmonids in Japan. Parasitology, 86, 537-552.

志村 茂・井上 潔・河西一彦・工藤真弘 (1983a): チョウモドキの寄生に伴うヤマメの血液性状の変化. 魚病研究, 18, 157-162.

志村 茂・井上 潔・工藤真弘・江草周三 (1983b): ヤマメのせっそう病に対するチョウモドキの寄生の影響の検討. 魚病研究, 18, 37-40.