写真3.淡水浴直後のブリ。ハダムシが死んで白く見える。

寄生虫名 Benedenia seriolae(ブリハダムシ)
分類学 扁形動物門、単生綱、単後吸盤目
宿主名 ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana
病名 ベネデニア症
寄生部位 体表
肉眼所見 最大で12 mm程度の虫体が体表に付着している。寄生部位周辺はびらんし、粘液の過剰分泌が見られる。寄生による刺激から、被寄生魚は体を養殖生け簀の網地などに擦りつけるようになり、その結果体表のスレや出血を生じるようになる(写真1)。
寄生虫学 虫体は小判型で扁平しており、成虫の体長は5-12 mm。虫体の後端部にある吸盤状の固着盤と、前端にある1対の口前吸盤で宿主に付着する(写真2)。固着盤中央には2対の鉤が存在する。雌雄同体で、成虫は2-4 mmの付属糸が付いた四面体の虫卵を産む。保科・松里(1967)によると、虫卵が孵化するまでには、12.5℃では52.1日、21.3℃で6.5日、23.9℃で5.2日かかった。さらに、虫卵の孵化率は、12.5-26.9℃では50%以上だが、29.7℃では3%で、9.4℃では0%であった。また、自然光下での室内実験においては、日照時間中、特に明け方に集中して孵化が見られた一方で、夜間にはほとんど孵化が観察されなかった(Kearn et al., 1992)。
病理学 感染魚は、寄生の影響で摂餌が低下して成長が悪くなる。直接的な病害性としては、固着盤の吸着による組織のびらんと、宿主体表組織の食害が挙げられる。間接的には、寄生刺激によって体を網地に擦りつける結果生じる体表の傷口が、細菌による二次感染の侵入門戸になる(小川, 2004)。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 虫体の圧平標本を作製して、形態学的な観察を行う。同じくブリ類の体表に寄生する近縁種のNeobenedenia girellaeとは、N. girellaeが体長3-8 mmとやや小さくて細長いことの他、体前端の1対の吸盤の間がB. seriolaeでは凸状なのに対してN. girellaeでは凹状であることなどで区別が付く。
その他の情報 細長いフィラメントを持つ卵が生け簀の網地に絡まりやすいため、1960年代にブリの網生け簀養殖が始まった当初から問題となっている。有機スズを含む防汚剤が生け簀の網地に用いられていた1970年代には被害は大きくなかった。しかし、有機スズ剤の使用が中止された1980年代後半以降は、ブリ養殖に与える被害が最も大きい寄生虫の1つである。対策としては、魚体表面に寄生している虫体の駆虫と、定期的な網替えによる虫卵の駆除を並行して行うことが推奨される。駆虫法としては、5-10分の淡水浴が最も確実である(写真3)。ただし、低水温期には浸漬時間を長めにする必要がある。また、過酸化水素を有効成分とする薬浴剤と、プラジクアンテルを有効成分とする経口駆虫剤が水産用医薬品として使用できる。
参考文献 Kearn, G. C., K. Ogawa and Y. Maeno (1992): Hatching patterns of the monogenean parasites Benedenia seriolae and Heteraxine heterocerca from the skin and gills, respectively, of the same host fish, Seriola quinqueradiata. Zool. Sci., 9, 451-455.

保科利一・松里寿彦 (1967): ハマチの病害虫の一種Benedenia seriolaeの卵の孵化と水温の関係. 昭和41年度魚病対策に関する研究報告. 静岡県水試, 69-71.

小川和夫 (2004): 単生虫病. 魚介類の感染症・寄生虫病(若林久嗣・室賀清邦編), 恒星社厚生閣, pp.353-379.

写真2.ハダムシの虫体

または

写真1.はだむしの寄生により体表がスレたヒラマサ

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