寄生虫名 Enteromyxum leeiエンテロミクサム・レーイ)
分類学 ミクソゾア門、粘液胞子虫綱、多殻目
宿主名 トラフグ(Takifugu rubripes)、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、マダイ(Pagrus major)、イシガキダイ(Oplegnathus punctatus)、ヨーロッパヘダイ(Sparus aurata)、ベラ類(Coris julis)、イソギンポ類、マンボウ(Mola mola)など、40種類以上
病名 粘液胞子虫性やせ病
寄生部位 消化管
肉眼所見 外観的には、眼窩が落ちくぼみ、頬がこけ、頭骨が浮き出るほどの著しいやせ症状が特徴的である(写真1)。剖検的には、腸管壁が透き通るほど薄くなり、腸管内に粘液質の液体が貯留する。
寄生虫学 消化管の上皮組織内および管腔内に多数の虫体が観察される。虫体の多くは、径10-20 μmの多核の栄養体(胞子形成前のステージ)として観察される(写真2)。特にトラフグを宿主とする場合、ほとんど胞子形成を行わない。胞子は「八の字」型に配列した2個の極嚢を持ち、長さ15.9-19.1(平均17.5μm7.9-11.09.2μmであるが、宿主によりかなりバラツキがある(写真3)。宿主範囲が広く、世界中で40種以上の魚種から報告されている(Padros et al., 2001)。生活環には交互宿主の介在が推測されるが、栄養体は魚から魚へ直接伝播する(Diamant, 1997; Yasuda et al., 2002)。そのため、養殖場内で被害が拡大しやすい。
病理学 腸上皮の増生や剥離を特徴とする病理変化が生じる(写真4)。その結果、栄養吸収や浸透圧調節に障害が起き、最終的には痩せると考えられる。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 消化管内壁のスタンプ標本をディフ・クイック染色して観察する。ただし、栄養体の形態に基づいて診断するには、ある程度の経験が必要である。トラフグの腸管には、E. leeiの他にもLeptotheca fugu(写真5)とEnteromyxum fugu(写真6)が寄生する。L. fuguは、E. leeiと同様に病害性が強く、本疾病の原因虫とされているが、E. leeiと異なり、魚から魚へは直接伝播しない。E. fuguは病害性が低く、病気には関与しない。そのため、これらの種の鑑別が重要である。L. fuguは極嚢が丸い点、E. fuguは栄養体の一次細胞内に2個の生殖核を有する点で識別できる。PCR法を用いた特異的な検出法も確立されており、検出感度も高い。さらに、肛門から綿棒を挿入して採取した腸内容物を試料とすることで、魚を殺さずに診断することも出来る(Yanagida et al., 2005)。
その他の情報 本病の発生は、夏から晩秋にかけての高水温期に多く、冬場の低水温期には少ない。これは、E. leeiの発育が水温15℃以下で抑制されるためと考えられる(Yanagida et al., 2006)。本病に対する有効な治療法はない。種苗や中間魚を導入する際にPCR法によって防疫対策をとることが重要である。
参考文献 Diamant, A. (1997): Fish-to-fish transmission of a marine myxosporean. Dis. Aquat. Org., 30, 99-105.

Padros, F., O. Palenzuela, C. Hispano, O. Tosas, S. Zahara, S. Crespo and P. Alvarez-pellitero (2001): Myxidium leei (Myxozoa) infections in aquarium-reared Mediterranean fish species. Dis. Aquat. Org., 47, 57-62.

Yanagida, T., M. A. Freeman, Y. Nomura, I. Takami, Y. Sugihara, H. Yokoyama and K. Ogawa (2005): Development of a PCR-based method for the detection of enteric myxozoans causing the emaciation disease of cultured tiger puffer. Fish Pathol., 40, 23-28.

Yanagida. T., M. Samashima, H. Nasu, H. Yokoyama and K. Ogawa. (2006): Temperature effects on the development of Enteromyxum spp. (Myxozoa) in experimentally infected tiger puffer, Takifugu rubripes (Temminck & Schlegel). J. Fish Dis., 29, 561-567.

Yasuda, H., Y. Ooyama, K. Iwata, O. Palenzuela and H. Yokoyama (2002): Fish-to-fish transmission of Myxidium spp. (Myxozoa) in cultured tiger puffer suffering from emaciation disease. Fish Pathol., 37, 29-33.

(写真提供者:柳田哲矢)

写真6.Enteromyxum fuguの栄養体(左)と胞子(右)。一次細胞の中にピンク色に染まる2個の核がみられる。

写真3.イシガキダイから検出されたE. leeiの胞子。

写真4.やせ病マダイの腸管組織。Uvitex 2B & HE染色。
E. leeiの栄養体はUvitex2Bにより蛍光を発する。

または

写真5.Leptotheca fuguの栄養体(左)と胞子(右)。二胞子形成性であるため、未成熟のときは対で見られることが多い。

写真2.やせ病トラフグの腸管スタンプに観察された
Enteromyxum leeiの栄養体(矢印)。ディフ・クイック染色

写真1.極度の痩せを呈した罹病トラフグ

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