寄生虫名 Hoferellus carassii(ホーフェレルス・カラッシイ)
分類学 ミクソゾア門、粘液胞子虫綱、双殻目
宿主名 フナ・キンギョ(Carassius auratus
病名 腎腫大症
寄生部位 腎臓
肉眼所見 外観的には腹部が膨満し、とくに片側が膨れるため「くの字」形に曲がってしまう場合が多い(写真1)。解剖所見では、腎臓が肥大してうきぶくろなどの内臓器官が物理的に圧迫されているのが確認できる(写真2)。
寄生虫学 本症の最盛期である秋季から冬季にかけて、腎臓の尿細管上皮細胞内で径10μm程度の栄養体が分裂・増殖する(写真3)。虫体の発育が進むと、栄養体は内部に3-4次細胞まで含有する数十μmの多核体に成長する。翌春、水温上昇に伴い、尿細管腔内に移動して胞子を産生する(Yokoyama et al., 1990a)。その後、胞子は体外に放出され、ある種の貧毛類に取り込まれて放線胞子ステージに変態する(Yokoyama et al., 1993, Trouillier et al., 1996)。胞子は砲弾形で後端にフィラメントを持ち、胞子12 μm、幅6 μm程度である。2個の極嚢は、長さ約4μmである。
病理学 尿細管上皮細胞内で栄養体が分裂するのに伴い、宿主の上皮細胞も分裂するため、腎臓組織が肥大する(Yokoyama et al., 1990a)。胞子が体外に放出されても肥大した腎臓は元に戻らないので、完全に回復することはない。しかし、寄生を受けるのは片側の腎臓のみであることが多いので、個体として腎臓機能に深刻な影響は及ぼさないと考えられる。むしろ、正常な遊泳ができなくなった結果、横転したり水面に浮上したままになったりして衰弱し、細菌等の二次感染を受けやすくなるといわれている。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 胞子形成期(春以降)であれば、腎臓患部をウェットマウントで観察して胞子を確認するが、発病盛期には栄養体しか観察できないので、診断が難しい。その場合は、腎臓のスタンプ標本を作製してギムザ染色またはディフ・クイック染色し、栄養体の特徴的な構造(細胞内細胞の多核体)を確認する。
その他の情報 1965年ごろから東京都のキンギョ養殖場で発生し始め、全国に広がった。対策として、30℃の高水温飼育(横山、2002)または抗生物質フマギリンの経口投与(Yokoyama et al., 1990b)が有効であったが、いずれも発病前の時期(8月頃)から実施する必要があるため、実用的とは言いがたい。発病したら治療は断念し、飼育環境を良好に保って延命させることに専念したほうがよいと思われる。
参考文献 Trouillier, A., M. El-Matbouli and R. W. Hoffmann (1996): A new look at the life-cycle of Hoferellus carassii in the goldfish (Carassius auratus auratus) and its relation to kidney enlargement disease (KED). Folia Parasitol., 43, 173-187.

横山 博 (2002): キンギョの腎腫大症。観賞魚臨床、29-14

Yokoyama, H., K. Ogawa and H. Wakabayashi (1990a): Light and electron microscopic studies on the development of Hoferellus carassii (Myxosporea), the causative organism of kidney enlargement disease of goldfish. Fish Pathol., 25, 149-156.

Yokoyama, H., K. Ogawa and H. Wakabayashi (1990b): Chemotherapy with fumagillin and toltrazuril against kidney enlargement disease of goldfish caused by the myxosporean Hoferellus carassii. Fish Pathol., 25, 157-163.

Yokoyama, H., K. Ogawa and H. Wakabayashi (1993): Involvement of Branchiura sowerbyi (Oligochaeta: Annelida) in the transmission of Hoferellus carassii (Myxosporea: Myxozoa), the causative agent of kidney enlargement disease (KED) of goldfish Carassius auratus. Fish Pathol., 28, 135-139.

写真1.腎腫大症を呈したキンギョの外観。

写真2.病魚の解剖所見。肥大した腎臓が顕著。

写真3.H. carassiiの栄養体。

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写真4.H. carassiiの胞子。

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