寄生虫名 Ichthyophonus hoferi(イクチオフォヌス・ホーフェリ)
分類学 オピストコンタ(後方鞭毛類)、イクチオスポレア綱、イクチフォヌス目
宿主名 ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、マスノスケ(O. tshawytscha)などのサケ科魚類、ニシン(Clupea pallasii)、ブリ(Seriola quinqeradiata)など
病名 イクチオフォヌス症
寄生部位 内臓、筋肉
肉眼所見 体色黒化、腹部膨満、眼球突出、内臓に結節(写真1)。
寄生虫学 以前は接合菌類に属する「真菌類」とされていたが、現在では「原虫類」の一員として扱われている(Adl et al., 2005)。初期は2個の核を持つ糸状体の胞子で、やがて分厚い細胞膜に囲まれ、多核球状体(径20-125 μmとなる(写真2)。やがてその球状体から糸状体が発芽して胞子ができるという生活環を持つ。感染源となるのは多核球状体であり、それを経口的に魚が摂取すると、胃粘膜で発芽して糸状体が宿主に侵入する(畑井、2004)。
病理学 腹水の貯留と腎臓の肥大によって腹部が著しく膨満する。各臓器に白色の小結節が形成される。感染病巣に繁殖性炎と肉芽腫性炎がみられる(畑井、2004)。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 ウェットマウントにより多核球状体を確認する。
その他の情報 以前、本症が日本のニジマス養殖に被害を与えたのは、イクチオフォヌスに感染したニシン等を生餌として与えたことによる。北米では、産卵回遊する天然マスノスケにイクチオフォヌス寄生が起こり、問題となっている(Kokan et al., 2004)。
参考文献

Adl, S. M., A. G. B. Simpson, M. A. Farmer et al. (2005): The new higher level classification of eukaryotes with emphasis on the taxonomy of protists. J. Eukaryot. Microbiol., 52 399-451.

畑井喜司雄 (2004): 真菌病. 魚介類の感染症・寄生虫病(若林久嗣・室賀清邦編), 恒星社厚生閣, pp. 263-284.

Kokan, R., P. Hershberger and J. Winton (2004): Ichthyophoniasis: An emerging disease of Chinook salmon in Yukon River. J. Aquat. Anim. Health, 16, 58-72.

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(写真提供者:粟倉輝彦)

写真2.肝臓組織にみられる多核球状体(矢印)

写真1.イクチオフォヌス寄生による腎臓の結節。