寄生虫名 Kudoa thyrsites (クドア・シルシテス)
分類学 ミクソゾア門、粘液胞子虫綱、多殻目
宿主名 ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、
キンメダイ(
Beryx splendens)、
カタクチイワシ(
Engraulis japonicus)、
スケトウダラ(
Theragra chalcogramma)、
シイラ(
Coryphaena hippurus)、
タイセイヨウサケ(
Salmo salar)、
タイセイヨウサバ(
Scomber scombrus
メルルーサ(
Merluccius capensis, M. productus)、
マトウダイ(
Zeus faber)、
ドーバーソール(
Microstomus pacificus)、オヒョウ(Hippoglossus stenolepis)、
バラクータ(
Thyrsites atun)、他10種以上
病名 筋肉クドア症、ジェリーミート
寄生部位 体側筋肉
肉眼所見 魚を収穫後、加工処理の間に筋肉がジェリー状に溶解する(写真1:ヒラメ、2:タイセイヨウサバ)。初期または軽度の場合は、まだら状に白濁する(写真3:キンメダイ)。宿主魚に致命的な影響は及ぼさない。
寄生虫学 筋肉線維内で発育し、多数の胞子が産生される(写真4)。胞子は星型で、4個の極嚢のうち1個が他の3個より大きい。胞子のサイズは報告により変異があるが、ヒラメの場合、径(厚さ)12.9-17.8 μm、長さ6.9-8.9 μm大極嚢の長さ4.0-5.9 μm、小極嚢の長さ2.0-4.0 μm。生活環は不明。中間宿主の介在が推測される。
病理学 魚が生きている間は、筋細胞内で発育する栄養体に対して宿主反応は見られず、剖検所見もはっきりしない。魚の死後、筋線維が崩壊して、寄生虫由来の酵素により周辺組織の融解が始まる。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。また、融解した魚肉がなんらかの毒性を持つという報告もない。
診断法 筋肉組織をつぶしてウェットマウントで胞子を確認するが、ジェリー化が激しいサンプルの場合は検出が困難な場合もある。大小の極嚢を有することが特徴であり、近縁種のKudoa lateolabracisとは胞子のサイズで識別できる(Yokoyama et al.2004)。標本はスメアにしてギムザ染色またはディフ・クイック染色する。PCR法も開発されている(Hervio et al., 1997)。
その他の情報 世界中に分布しており宿主範囲も非常に広い寄生虫であるため、クドア属のなかでは最も研究されている種類である(Moran et al., 1999; Whipps & Kent, 2006)。カナダ西海岸で海面養殖されるタイセイヨウサケに大きな被害をもたらす。しかし、日本では天然魚で散発的に発生する程度である。韓国から種苗導入した養殖ヒラメに見られた事例があるが、本寄生虫は日本にも分布しているため、どこで感染したかは明らかでない(Yokoyama et al., 2004)。なお、本疾病を防除するのに有効な対策はない。
参考文献 Hervio, D. M. L., M. L. Kent, J. Khattra, J. Sakanari, H. Yokoyama and R. Devlin (1997): Taxonomy of Kudoa species (Myxosporea), using a small-subunit ribosomal DNA. Can. J. Zool., 75, 2112-2119.

Moran J. D. W., D. J. Whitaker and M. L. Kent (1999): A review of the myxosporean genus Kudoa Meglitsch, 1947, and its impact on the international aquaculture industry and commercial fisheries. Aquaculture, 172, 163-196

Whipps, C. M. and M. L. Kent (2006): Phylogeography of the cosmopolitan marine parasite Kudoa thyrsites (Myxozoa: Myxosporea). J. Eukaryot. Microbiol., 53, 364-373.

Yokoyama, H., C. M. Whipps, M. L. Kent, K. Mizuno and H. Kawakami (2004): Kudoa thyrsites from Japanese flounder and Kudoa lateolabracis n. sp. from Chinese sea bass: causative myxozoans of post-mortem myoliquefaction. Fish Pathol., 39, 79-85.
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写真4.K. thyrsitesの胞子

写真3.罹病キンメダイ。白濁した患部がみえる。

写真1.筋肉融解を呈したヒラメの筋肉

写真2.筋肉融解を呈したタイセイヨウサバのフィレ