寄生虫名 Myxobolus acanthogobii(ミクソボルス・アカンソゴビイ)
分類学 ミクソゾア門、粘液胞子虫綱、双殻目
宿主名 ブリ(Seriola quinqueradiata)、マサバ(Scomber japonicus)、マハゼ(Acanthogobius flavimanus)、ホウボウ(Chelidonichthys spinosus)ムツ(Scombrops boops)、キタマクラ(Canthigaster rivulata
病名 脊椎湾曲症(ブリの場合、粘液胞子虫性側湾症)
寄生部位
肉眼所見 ブリでは脊椎骨が左右に側湾するのが特徴であるが(写真1、2)、マサバの場合は背腹湾する(写真)。一方、マハゼでは脊椎の湾曲は見られない。いずれの魚種においても、脳に微小な白いシストの形成が見られる(写真4)。
寄生虫学 シストの内部で多数の胞子が産生される(写真)。胞子は楕円形で長さ9.2-11.8(平均10.6)μm、幅7.9-10.29.2)μm、厚さ5.5-7.36.6μm。2個の極嚢の長さ3.9-5.44.5μm、幅2.5-3.42.8μm。生活環は不明。中間宿主の介在が推測される。
病理学 宿主由来の組織で被嚢されたシストが、単独または集塊として、中脳腔、第四脳室、嗅葉、視蓋葉などに観察される(写真6)。ブリの場合、第四脳室にシストが形成されると、その物理的刺激により神経系が障害を受けた結果、側湾症が起こるとされているMaeno and Sorimachi, 1992
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 シストをつぶしてウェットマウントで胞子を確認する。同じく海産魚の脳に寄生する粘液胞子虫Kudoa yasunagai7個の極嚢を持つ多殻目であり、本種とは容易に区別が付く。標本はスメアにしてギムザ染色またはディフ・クイック染色する。また、本種を特異的に検出するPCR法が開発されている(Miyajima et al., 2005)。
その他の情報 本症は古くから養殖ブリで発生が見られ、漁網防汚剤として当時使われていた有機スズの影響等が疑われたが、後にMyxobolus buriの脳寄生による感染症であることが証明された(Egusa, 1985)。本種は後に、遺伝子解析と形態観察によって、マハゼの脳に寄生するMyxobolus acanthogobiiと同種であることが明らかになった(Yokoyama et al., 2004)。側湾と背腹湾の違いはあるが、養殖マサバの脊椎湾曲症も本種が原因である(Yokoyama et al., 2005)。本症の発生には地域性があると言われており、中間宿主または天然保有魚の分布と関連していることが示唆されるが、感染環は明らかにされていない。しかし、中間宿主を稚魚が捕食することにより感染が成立するとの仮説に基づき、餌付け期に早朝から夕方まで連続給餌を行うことで天然餌料をなるべく取り込まないような条件を設定し発病率を抑制できたとの報告がある(阪口ら, 1987)。
参考文献 Egusa, S. (1985): Myxobolus buri sp. n. (Myxosporea: Bivalvulida) parasitic in the brain of Seriola quinqueradiata Temminck et Schlegel. Fish Pathol., 19, 239-244.

Maeno, Y. and M. Sorimachi (1992): Skeltal abnormalities of fishes caused by parasitism of Myxosporea. NOAA Technical Report NMFS, 111, 113-118.

Miyajima, S., H. Yokoyama, Y. Fukuda, K. Okamoto and K. Ogawa (2005): A PCR method to detect Myxobolus acanthogobii (Myxozoa: Myxosporea), the causative agent of skeletal deformities of marine fishes. Fish Pathol., 40, 197-199

阪口清次・原 武史・松里寿彦・柴原敬生・山形陽一・河合 博・前野幸男 (1987): 養殖ハマチの粘液胞子虫寄生による側湾症. 養殖研報, 12, 79-86.

Yokoyama, H., M. A. Freeman, T. Yoshinaga and K. Ogawa (2004): Myxobolus buri, the myxosporean parasite causing scoliosis of yellowtail, is synonymous with Myxobolus acanthogobii infecting the brain of the yellowfin goby. Fish. Sci., 70, 1036-1042.

Yokoyama, H., M. A. Freeman, N. Itoh and Y. Fukuda (2005): Spinal curvature of cultured Japanese mackerel Scomber japonicus associated with a brain myxosporean, Myxobolus acanthogobii. Dis. Aquat. Org., 66, 1-7.
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(写真提供者:桃山和夫(2))

写真6.マサバ病魚の脳内に形成された
M. acanthogobiiのシスト(矢印)

写真5.M. acanthogobiiの胞子

写真4.マサバ病魚の脳表面に見られるシスト
(矢印)

写真3.背腹湾を呈した養殖マサバ

写真2.罹病ブリの背面観

写真1.側湾症を呈した養殖ブリ