寄生虫名 Marteilioides chungmuensis(マルテイリオイデス・チュンムエンシス)
分類学 パラミクサ門
宿主名 マガキ(Crassostrea gigas)、イワガキ(Crassostrea nippona
病名 卵巣肥大症
寄生部位 卵巣
肉眼所見 外観上の異常は見られない。開殻すると、卵巣に淡黄色で数mmから1 cm程度の膨隆患部が確認される(写真1)。
寄生虫学 卵細胞内に寄生する細胞内寄生性の原生動物である。虫体の大きさは直径5-25 μmで、発育ステージによって異なる(写真2, 3)。虫体は卵細胞内で胞子を形成し、感染卵が産出されるのに伴いカキ体外に放出される(Itoh et al., 2002)。近縁種ではカイアシ類のプランクトンが中間宿主となることが知られており、本種の生活環にも中間宿主の関与が推測されるが、詳細は不明である。
病理学 卵巣に膨隆患部が形成されることにより外観が醜悪になり、商品価値を失う。一方で、宿主への病害性は小さいと考えられてきた。しかし近年、感染カキの死亡率が9月から10月にかけて高まることが明らかになった。これは、M. chungmuensisの寄生が産卵期を通常より長期化させることにより、感染カキの栄養状態が悪くなるためであると考えられている(Tun et al., 2007)。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 類似の外観症状をマガキに引き起こす疾病は他に知られておらず、卵巣の膨隆患部を確認することで診断は可能である。ただし、感染初期や寄生強度が低い場合には肉眼では確認できないこともある。そのため、確定診断には卵巣のスタンプ標本や組織切片標本を観察して、卵細胞内の寄生体を確認する必要がある。また、M. chungmuensisに特異的なPCR法やin situ hybridization法も開発されている(Itoh et al., 2003)。
その他の情報 かつては「異常卵塊」とも呼ばれた。我国および韓国のマガキ養殖場で発生が報告されており、産業的に大きな問題となっている。今のところ本症に有効な対策は確立されていないが、マガキを潮間帯で飼育すると本虫の寄生率が減少するという報告があり(Tun et al., 2006)、対策への応用が期待される。

参考文献




Itoh, N., T. Oda, K. Ogawa and H. Wakabayashi (2002): Identification and development of paramyxean ovarian parasite in the Pacific oyster Crassostrea gigas. Fish Pathol., 37, 23-28.

Itoh, N., T. Oda, T. Yoshinaga and K. Ogawa (2003): DNA probes for detection of Marteilioides chungmuensis from the ovary of Pacific oyster Crassostrea gigas. Fish Pathol., 38, 163-169.

Tun, K. L., N. Itoh, H. Komiyama, N. Ueki, T. Yoshinaga and K. Ogawa (2006): Comparison of Marteilioides chungmuensis infection in the Pacific oyster Crassostrea gigas cultured in different conditions. Aquaculture, 253, 91-97.

Tun, K. L., N. Itoh, Y. Shimizu, H. Yamanoi, T, Yoshinaga and K. Ogawa (2007): Pathogenicity of the protozoan parasite Marteilioides chungmuensis in the Pacific oyster Crassostrea gigas. Int. J. Parasitol., in press.
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または

写真3.患部の組織標本。HE染色。

写真1.卵巣肥大症を呈したマガキ。白い膨隆患部がみられる。

(写真提供者:小川和夫(1)、Kay Lwin Tun (2)、
伊藤直樹(3))

写真2.患部の生標本。卵細胞内に寄生する虫体が観察される。