寄生虫名 Myxobolus artus(コイ筋肉ミクソボルス)
分類学 ミクソゾア門、粘液胞子虫綱、双殻目
宿主名 コイ(Cyprinus carpio
病名 筋肉ミクソボルス症
寄生部位 体側筋肉
肉眼所見 体側筋肉に長さ数mmの米粒大白色シストが形成される。1歳魚では外観的な症状が見られないため、出荷先で初めて発見されて問題となる(写真10歳魚の場合は外観的に体表が凹凸を呈するほど重篤に寄生を受けることがある(写真2)。その場合は、鰓の貧血や腎臓の肥大が顕著に見られる(写真3)。
寄生虫学 シストの内部で多数の胞子が産生される(写真4)。胞子は上下に押しつぶしたような楕円形で、長さ7.6-9.5 μm、幅10.0-12.7 μm、厚さ5.7-6.3 μm2個の極嚢はほぼ同形、同大で、長さ4-5 μm×幅3-4 μm。生活環は不明。中間宿主の介在が推測される。
病理学 寄生虫は体側筋の筋繊維間において、宿主由来の結合組織に被嚢されてシストを形成する。0歳稚魚が重篤に寄生を受けると体側筋がほとんど寄生体に置き換わってしまうほどになるが、罹病魚は衰弱するものの急性的に死ぬことはない。シスト内での胞子形成が終了すると被嚢していた結合組織が萎縮して崩壊し、胞子が流出する。これをマクロファージが貪食して、腎臓、脾臓などに輸送する。特に腎臓における胞子の集積は顕著で、肉眼的にも肥大して見える場合もある。胞子は腸管、体表、鰓にも輸送されるが、この場合はそのまま体外に排出される(Ogawa et al., 1992)。大量の胞子が鰓に運ばれると、毛細血管が拡張、崩壊し、鰓上皮が剥離して出血する。鰓は極度の貧血を呈し、ヘマトクリット値、ヘモグロビン量、赤血球数の低下および幼若赤血球数の増加を特徴とする出血性貧血となる(Yokoyama et al., 1996)。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 コイの体側筋肉に類似のシストを形成する種類は他にないので、解剖所見においても推定診断が可能である。確定診断には、シストをつぶしてウェットマウントで胞子を確認する。標本はスメアにしてギムザ染色またはディフ・クイック染色する。
その他の情報 1980年代半ばに茨城県霞ヶ浦の養殖コイに突如出現し各地に拡がった。魚への感染期は5-6月と考えられており、夏から秋にかけてシストが可視大に達する。その後、秋から翌春にかけてシスト崩壊に伴い胞子が排出されるが、重篤寄生を受けた0歳魚の場合はその期間中、出血性貧血により慢性的に死亡する。本病に対する駆虫薬などによる治療策はない。0歳魚の秋以降、シストは徐々に萎縮して最終的には消失するが、完全に治癒するまでかなりの長期間を要する。そのため、外観的に判別できるほどの重篤感染魚は早めに処分した方がよい。なお、シストが発育途中で崩壊した場合、罹病魚はM. artusの栄養体に対する抗体を産生するが(Furuta et al., 1993)、感染防御との関係は不明である。
参考文献 Furuta, T., K. Ogawa and H. Wakabayashi (1993): Humoral immune response of carp Cyprinus carpio to Myxobolus artus (Myxozoa: Myxobolidae) infection. J. Fish Biol., 43, 441-450.

Ogawa, K., K. P. Delgahapitiya, T. Furuta and H. Wakabayashi (1992): Histological studies on the host response to Myxobolus artus Akhmerov, 1960 (Myxozoa: Myxobolidae) infection in the skeletal muscle of carp, Cyprinus carpio L. J. Fish Biol., 41, 363-371.

Yokoyama, H., T. Danjo, K. Ogawa, T. Arima and H. Wakabayashi (1996): Hemorrhagic anemia of carp associated with spore discharge of Myxobolus artus. Fish Pathol., 31, 19-23.
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写真4.M. artus の胞子

写真3.コイ0歳魚の剖検。鰓の貧血と腎臓の肥大

写真1.罹病コイ1歳魚の筋肉

写真2.重篤な寄生を受けたコイ0歳魚