寄生虫名 Neobenedenia girellae(ネオベネデニア・ギレレ)
分類学 扁形動物門、単生綱、単後吸盤目
宿主名 ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、トラフグ(Takifugu rubripes)、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、マダイ(Pagrus major)、スズキ(Lateolabrax japonicus)、シマアジ(Pseudocaranx dentex)、スジアラ(Plectropomus leopardus)、キジハタ(Epinephelus akaara)、ヤイトハタ(Epinephelus malabaricus
病名 ネオベネデニア症
寄生部位 体表
肉眼所見 3-6 mm程度の虫体が体表に付着している(写真1)。寄生部位周辺はびらんし、粘液の過剰分泌が見られる。寄生による刺激から、被寄生魚は体を養殖生け簀の網地などに擦りつけるようになり、その結果体表のスレや出血を生じるようになる。
寄生虫学 虫体は小判型で扁平しており、成虫の体長は3-6 mm(写真2)。虫体の後端部にある吸盤状の固着盤と、前端にある1対の口前吸盤で宿主に付着する。固着盤中央には2対の鉤が存在する。雌雄同体で、成虫は糸状のフィラメントが付いた虫卵を産む。卵が孵化するまでには、27-30℃では4日、25℃では5-6日、20℃で7日、18℃で8日かかる。しかし、15℃では3週間経過しても孵化しなかった。卵から性成熟した成虫になるまでには、25℃で15-17日を要する。このような結果からは、本種が高水温に適応した種であることが示唆される(Bondad-Reantaso et al., 1995a)。宿主範囲が広く、15種もの海産養殖魚に寄生することが確認されている(小川, 2004)。なお、本種をN. melleniとする説もある。
病理学 感染魚は、寄生の影響で摂餌が低下して成長が悪くなる。直接的な病害性としては、固着盤の吸着による組織のびらんと、宿主体表組織の食害が挙げられる。間接的には、寄生刺激によって体を網地に擦りつける結果生じる体表の傷口が、細菌による二次感染の侵入門戸になる(小川, 2004)。マダイやスギでは、とくに目に寄生して失明の原因となる(Ogawa et al., 2006)(写真3)。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 虫体の圧平標本を作製して、形態学的な観察を行う。同じくブリ類の体表に寄生する近縁種のBenedenia seriolaeとは、B. seriolaeが体長5-12 mmとやや大型であることの他、体前端の1対の吸盤の間がB. seriolaeでは凸状なのに対してN. girellaeでは凹状であることなどで区別が付く(Kinami et al., 2005)。
その他の情報

本種が日本で初めて確認されたのは1991年であり、当初は、養殖ヒラメとトラフグに感染が見られた。その後、中国産の輸入カンパチ種苗に高率で寄生していることが判明したため、現在では、外国産種苗とともに日本に侵入してきた寄生虫であると考えられている(Ogawa et al., 1995対策としては、魚体表面に寄生している虫体の駆虫と、定期的な網替えによる虫卵の駆除を並行して行うことが推奨される。駆虫法としては、5-10分の淡水浴が最も確実である。ただし、低水温期には浸漬時間を長めにする必要がある。また、過酸化水素を有効成分とする薬浴剤が水産用医薬品として認可されている。なお、1度感染したヒラメでは、本種の再感染に対する防御能を獲得することが実験的に確かめられている(Bondad-Reantaso et al., 1995b)。

参考文献 Bondad-Reantaso, M. G., K. Ogawa, M. Fukudome and H. Wakabayashi (1995a): Reproduction and Growth of Neobenedenia girellae (Monogenea: Capsalidae), a skin parasite of cultured marine fishes of Japan. Fish Pathol., 30, 227-231.

Bondad-Reantaso, M. G., K. Ogawa, T. Yoshinaga and H. Wakabayashi (1995b): Acquired protection against Neobenedenia girellae in Japanese flounder. Fish Pathol.,30, 233-238.

Kinami, R., J. Miyamoto, T. Yoshinaga, K. Ogawa and Y. Nagakura (2005) A practical method to distinguish between Neobenedenia girellae and Benedenia seriolae. Fish Pathol., 40, 63-66.

Ogawa, K., M. G. Bondad-Reantaso, M. Fukudome and H. Wakabayashi (1995): Neobenedenia girellae (Hargis, 1955) Yamaguchi, 1963 (Monogenea: Capsalidae) from cultured marine fishes of Japan. J. Parasitol., 81, 223-227.


Ogawa, K., J. Miyamoto, H.-C. Wang, C.-F. Lo and G.-H. Ko (2006): Neobenedenia girellae (Monogenea) infection of cultured cobia Rachycentron canadrum in Taiwan. Fish Pathol., 41, 51-56..

小川和夫 (2004): 単生虫病. 魚介類の感染症・寄生虫病(若林久嗣・室賀清邦編), 恒星社厚生閣, pp.353-379.

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または

写真1.ネオベネデニアの寄生を受けたヒラメ

写真2.N. girellaeの虫体

写真3.眼に寄生して失明したスギ(ホルマリン標本)。