または

寄生虫名 Neoheterobothrium hirame(ネオヘテロボツリウム・ヒラメ)
分類学 扁形動物門、単生綱、多後吸盤目
宿主名 ヒラメ(Paralichthys olivaceus
病名 ネオヘテロボツリウム症
寄生部位 鰓弁、口腔壁
肉眼所見 鰓や口腔壁に最大で30 mm程度の虫体が寄生しているのが確認できる(写真1)。多数寄生の場合、吸血により鰓は褪色して貧血症状を示す。重症魚では、鰓は白色になることもある。
寄生虫学 虫体は細長く、成虫の体長は最大で33 mm(写真2)。幼虫はまず鰓弁上に寄生した後、口腔壁に移動して成虫になる。感染してから卵を有するまでには、15-25℃で約1-2ヶ月を要する(Tsutsumi et al., 2003)。成虫は虫体の後端部に左右4対の把握器を持ち、この把握器によって口腔壁に吸着する。雌雄同体で、成虫は両端に長い突起を持つ虫卵を産む。1日当たり数百個の卵を産み、10-25℃では1-3週間程度で孵化するが、30℃ではほとんど孵化しない(Yoshinaga et al., 2000a)。
病理学 大量寄生すると、吸血により鰓が貧血症状を呈する。この貧血は、血液学的には、赤血球の減少、ヘモグロビン量の低下、幼若赤血球の出現等を特徴とする低色素性小球性の貧血と定義される(Nakayasu et al., 2002)。本虫の寄生による天然ヒラメの資源量に与える影響が懸念されている。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 成虫の場合、口腔壁に寄生している虫体を肉眼で確認できる。鰓弁上の仔虫に関しては、鰓弁の一部をスライドグラス上に乗せて光学顕微鏡で観察する。なお、ヒラメの鰓や口腔壁に寄生する類似の単生類は知られていないため、他の種と混同することはない。
その他の情報 1995年頃から、貧血症状を呈する天然ヒラメが漁獲されるようになった。時を同じくして、日本海沿岸の天然ヒラメから本虫の寄生が確認されるようになり、貧血症の原因ではないかと疑われた。当初はウイルスが関与しているとの説もあったが、現在では本虫がヒラメの貧血症の原因であるとされている。本虫は1990年代中頃から突如見られるようになったため、海外からの移入種ではないかと考えられている。対策としては、3%の食塩添加海水に60分間浸漬することで鰓に寄生する未成熟虫を完全に駆虫できる。ただし、口腔壁に固着している成虫に対する効果は少ない(Yoshinaga et al., 2000b)。
参考文献 Nakayasu, T., T. Yoshinaga and A. Kumagai (2002): Hematological characterization of anemia recently prevailing in Japanese flounder. Fish Pathol., 37, 38-40.

Tsutsumi, N., T. Yoshinaga, T. Kamaishi, C. Nakayasu and K. Ogawa (2003): Effects of water temperature on the development of the monogenean Neoheterobothrium hirame on Japanese flounder Paralychthys olivaceus. Fish Pathol., 38, 41-47.

Yoshinaga, T., I. Segawa, T. Kamaishi and M. Sorimachi (2000a): Effects of temperature, salinity and chlorine treatment on egg hatching of the monogenean Neoheterobothrium hirame infecting Japanese flounder. Fish Pathol., 35, 85-88.

Yoshinaga, T., T. Kamaishi, I. Segawa and E. Yamamoto (2000b): Effects of NaCl-supplemented seawater on the monogenean, Neoheterobothrium hirame, infecting the Japanese flounder. Fish Pathol., 35, 97-98.

写真2.N. hirameの虫体(染色標本)

(写真提供:小川和夫)

写真1.ヒラメの口腔壁に寄生したネオヘテロボツリウムの集塊(矢印)。

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