寄生虫名	Pseudoterranova decipiens（シュードテラノーバ・ディシピエンス）
分類学	線形動物門、双線綱、アニサキス科
宿主名	サケ（Oncorhynchus keta）、マダラ（Gadus macrocephalus）、スケトウダラ（Theragra chalcogramma）、ホッケ（Pleurogrammus azonus）、スルメイカ（Todarodes pacificus）、サワラ（Scomberomorus niphonius）他多くの海産魚
寄生部位	腹腔内、内臓、まれに筋肉
肉眼所見	外観的な異常は見られない。解剖すると、大きさ1-4 cm程度の糸状の虫体が腹腔内、肝臓、胃壁等から見つかる。アニサキス属線虫と異なり、とぐろを巻かないことが特徴である。魚種によっては筋肉に寄生することもある。
寄生虫学	終宿主は主に鰭脚類（アザラシ、トド等）であり、海中に放出された虫卵から孵化した幼虫は、オキアミなどの甲殻類を経て魚介類に寄生する。魚介類に寄生しているときの大きさは1-4 cm程度で、体色は赤褐色。頭端に穿歯（写真1）、尾端に小棘を持つ（写真2）。なお、狭義（sensu stricto）にP. decipiensといった場合には1種をさすが、広義（sensu lato）には遺伝的に異なる複数の種を含む（Paggi et al., 2000; Zhu et al., 2002）。
病理学	魚に対する病害性は低いと考えられるが、詳細は不明である。
人体に対する影響	いわゆるアニサキス症の原因となる。生きた虫体を摂取すると、寄生虫が胃腸壁に穿孔して激しい腹痛、嘔吐を伴う急性胃腸炎を引き起こす。そのため、P. dicipiensが寄生しうる魚介類を生食する場合は注意が必要である。加熱処理や-20℃で24時間以上冷凍すれば虫体は死滅する。
診断法	アニサキス属線虫に比べるとやや大型であり、体色が赤っぽい。形態学的にはシュードテラノーバは腸盲嚢があることで区別できる（写真3）。現在では、種々のPCR法や制限酵素断片長の多型などを利用した診断法が開発されている（Kijewska et al., 2002; Zhu et al., 2002; Nadler et al., 2005）。
その他の情報	基本的に天然魚の寄生虫であるが、特に北方系の魚種に寄生していることが多い。そのため、我が国ではP. decipiensを原因とするアニサキス症の発生が最も多いのは北海道である（石倉, 1999）。
参考文献	石倉　肇 (1999): アニサキス症（2）臨床と疫学. 日本における寄生虫学の研究7（大鶴正満・亀谷　了・林　滋生監修）, 目黒寄生虫館, pp.439-464 Kijewska, A., J. Rokicki, J. Sitko and C. Wegrzyn (2002): Ascaridoidea: a simple DNA assay for identification of 11 species infecting marine and freshwater fish, mammals, and fish-eating birds. Exp. Parasiol., 101, 35-39. Nadler, S. A., S. D’Amelio, M. D. Dailey, L. Paggi, S. Siu and J. A. Sakanari (2005): Molecular phylogenetics and diagnosis of Anisakis, Pseudoterranova, and Contracaecum from Northern Pacific marine mammals. J. Parasitol., 91, 1413-1429. Paggi, L., S. Mattiucci, D. I. Gibson, B. Berland, G. Nascetti, R. Cianchi and L. Bullini (2000): Pseudoterranova decipiens species A and B (Nematoda, Ascaridoidae): nomenclatural designation, morphological diagnostic characters and genetic markers. Syst. Parasitol., 45, 185-197. Zhu, X. Q., S. D’amelio, H. W. Palm, L. Paggi, M. George-Nascimento and R. B. Gasse (2002): SSCP-based identification of members within the Pseudoterramova decipiens complex (Nematoda: Ascaridoidea: Anisakidae) using genetic markers in the internal transcribed spacers of ribosomal DNA. Parasitology, 124, 615-623.