病原体名 | Flavobacterium psychrophilum(冷水病菌) |
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分類学 | グラム陰性、桿菌 |
宿主名 | アユ(Plecoglossus altivelis)、オイカワ(Zacco platypus)、ギンザケ(Oncorhynchus kisutsh)、マスノスケ(Oncorhynchus tshawytscha)、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、ヤマメ(Oncorhynchus masou)、タイセイヨウサケ(Salmo salar) |
病名 | 細菌性冷水病 |
肉眼所見 | 体表のびらん、穴あき、潰瘍等が特徴的であるが(写真1)、下顎部の出血および欠損、鰓や内臓諸器官の貧血といった異常も観察される。稚魚期には体表の白濁や尾柄部周辺のびらん、潰瘍が見られる。 |
細菌学 | 原因菌は、グラム陰性の細長い桿菌で大きさ2-7×0.3-0.75 μmである(写真2)。滑走運動性を有するが、微弱で観察し難いことが多い。改変サイトファガ培地などの寒天平板培地を用いて15℃で5日間程度培養すると、黄色コロニーを形成する。コロニーの形状としては、不規則な波状の縁を持つものと、表面の滑らかな円形のものがある。発育可能温度は5-23℃で至適温度は15℃前後であるが、3℃や25℃で発育する菌株もある。食塩濃度2%では発育せず、また嫌気的条件でも発育しない(若林, 2004)。 |
病理学 | 魚種や成長段階によって症状は異なる。アユの場合、稚魚では体表の白濁、脂鰭から尾柄部にかけてのびらんや潰瘍が特徴的であるが、成魚の場合、鰓や内臓の貧血以外には顕著な症状が見られないものが多い。ニジマスでは、体色の黒化、鰓の貧血、肝臓や腎臓の褪色、眼球突出や腹部膨満が観察される(若林, 2004)。 |
人体に対する影響 | 人間には感染しないので、食品衛生上の問題はない。 |
診断法 | 体表の患部や、鰓、腎臓などから分離した菌を、PCR法や、特異抗血清を用いた凝集反応などの血清学的手法により同定する。 |
その他の情報 | 本病は、1946年に米国のニジマスにおいて最初に記録され、その後ヨーロッパ、オーストラリア、南米、アジアに拡がった。日本では、1987年に徳島県の琵琶湖産アユ稚魚で本病の発生が確認され、冷水病原因菌が分離された。その後、1990年には東北地方のギンザケ孵化場で本病が発生した。現在では天然河川にも蔓延しており、オイカワなどの野生魚にまで被害を拡げている。河川のアユにおける本病の流行時期は5-10月にわたるが、その70%以上が5-6月であったという報告がある(若林, 2004)。対策としては、導入、放流前の保菌状況のチェックおよび消毒を徹底することで原因菌を持ち込まないようにすることが最も重要である。アユの場合、水産用医薬品のスルフィゾールによる治療効果が確認されている。また、本病原因菌が25℃以上でほとんど増殖しない性質を生かした、飼育水の加温処理も有効である。 |
参考文献 | 若林久嗣 (2004): 細菌性冷水病. 魚介類の感染症・寄生虫病(若林久嗣・室賀清邦編), 恒星社厚生閣, pp.177-183. |
または
写真1.冷水病に罹患したアユ。体表の患部が顕著。
(写真提供者:桃山和夫)