寄生虫名 Heterobothrium okamotoi(ヘテロボツリウム・オカモトイ)
分類学 扁形動物門、単生綱、多後吸盤目
宿主名 トラフグ(Takifugu rubripes
病名 ヘテロボツリウム症
寄生部位 鰓弁、鰓腔壁
肉眼所見 外観上、特徴的な症状はない。剖検的には、最大で20 mm程度の虫体が鰓腔壁に寄生しているのが見える。多数寄生の場合、吸血により鰓は褪色して貧血症状を示す(写真1)。
寄生虫学 虫体は細長く、成虫の体長は7-24 mm。未成熟虫は鰓弁上に約1ヶ月寄生した後、鰓腔壁に移動して成虫になる。成虫は虫体の後端部に左右4対の把握器を持ち、この把握器によって鰓腔壁に吸着する。未成熟虫、成虫共に宿主の鰓から吸血する。雌雄同体で、成虫は前後が付属糸で結ばれた数珠つながりの虫卵を産み、その長さは最長で2.8 mにも達する(Ogawa, 1997)。孵化した幼生は、1日以内に最も強い感染力を持つが、4日後でも少数は感染力を保持する(Chigasaki et al., 2000)。
病理学 大量寄生すると、吸血により鰓が貧血症状を呈し、重篤な場合には死亡する。病理組織学的には、鰓弁に寄生している時には寄生部位に病理変化は見られない。鰓腔壁に虫体が移行した後には、固着盤の周辺組織に著しい炎症反応が見られるようになる。その後、さらに増生した宿主組織によって虫体の後半部分が被包される(Ogawa and Inouye, 1997)。炎症や海水の侵入、細菌による二次感染などによって、寄生部位の組織は壊死する。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 成虫の場合、鰓腔壁に寄生している虫体を肉眼でも容易に確認できる。鰓弁上に寄生している未成熟虫に関しては、鰓弁の一部を取って光学顕微鏡で観察する。なお、トラフグの鰓に寄生する類似の単生類は知られていないため、他の種と混同することはない。
その他の情報 細長いフィラメントを持つ卵が生け簀の網地に絡まりやすく、生け簀内で再感染が起こりやすい。そのため、定期的な網替えによる虫卵の駆除が推奨される。また、虫体の駆除剤として、過酸化水素を有効成分とする薬浴剤と、フェバンテルを有効成分とする経口駆虫剤が水産用医薬品として市販されている。ただし、過酸化水素は鰓弁上の未成熟虫にしか効果はない。虫卵駆除と虫体駆除を並行して行うことが望ましく、さらに周辺水域の生け簀において一斉に行うことによりその効果が高まると考えられる。
参考文献 Chigasaki, M., K. Ogawa and H. Wakabayashi (2000): Standardized method for experimental infection of tiger puffer, Takifugu rubripes with oncomiracidia of Heterobothrium okamotoi (Monogenea: Diclidophoridae) with some data on the oncomiracidial biology. Fish Pathol., 35, 215-221.

Ogawa, K. (1997): Copulation and egg production of the monogenean Heterobothrium okamotoi, a gill parasite of cultured tiger puffer (Takifugu rubripes). Fish Pathol., 32, 219-223.

Ogawa, K. and K. Inouye (1997): Heterobothrium infection of cultured tiger puffer, Takifugu rubripes (Teleostei: Tetraodontidae) - a field study. Fish Pathol., 32, 15-20.
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写真2.H. okamotoiの虫体(染色標本)

写真1.ヘテロボツリウム(矢印)の重度寄生を受けた
トラフグ。鰓の貧血が顕著に見られる。