または
写真1.べこ病を呈したウナギ外観。
(写真提供者:岡 英夫)
寄生虫名 | Heterosporis anguillarum(ウナギ異形微胞子虫) |
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分類学 | 微胞子虫門、微胞子虫綱、微胞子虫目 |
宿主名 | ウナギ(Anguilla japonica) |
病名 | べこ病 |
寄生部位 | 主に体側筋肉、まれに胃壁筋肉。 |
肉眼所見 | 外観的に、体表がへこんで不規則な凹凸を呈する(写真1)。体側筋肉患部はクリーム色に白濁し、寄生虫由来のタンパク分解酵素によって寄生部位の周辺の組織が融解する。 |
寄生虫学 | 筋細胞内にシスト(スポロフォロシスト)を形成し、内部に多数の胞子が産生される(写真2)。胞子には大小2型存在するのが特徴で、大胞子は長さ6.7-9.0 μm、幅3.3-5.3 μm、小胞子では長さ2.8-5.0 μm、幅2.0-2.9 μmである。本種は、以前、Pleistophora属に入れられていたが、スポロフォロシスト内の発育が同調的でないことなどの特徴から、Heterosporis属に移された。 |
病理学 | 寄生虫が筋細胞内で発育している間は、明瞭な宿主反応や病変はほとんど見られない(写真3)。しかし、胞子形成が終了してシストが崩壊すると、シスト内部に存在したタンパク分解酵素によって筋組織は融解し、患部はクリーム色から黄色に変色する。その後、患部には貪食細胞や各種リンパ球が浸潤し、最終的には修復される(小川, 2004)。 |
人体に対する影響 | 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。 |
診断法 | 患部を少量とりウェットマウントで胞子を確認する。ただし、回復期には、外観症状を呈していても胞子が検出されない場合もある。標本はスメアにしてUvitex 2B染色し、蛍光顕微鏡で観察する。染色された胞子は、紫外光で青い蛍光を発する。 |
その他の情報 | 本病は日本と台湾で発生が確認されている。感染は経口または経皮的に起こる。魚体内で形成された胞子が再感染する可能性(自家感染)もあるが、証明されていない。寄生虫の発育は水温に影響され、20℃-30℃では高水温ほど発育が早まり、25℃では感染後30日でシストが形成される。一方、15℃以下ではほとんど発育しない、すなわち発病しないとされる(小川, 2004)。対策として、感染が経口または経皮的におこることから、病魚を取り除くことや共食いを防ぐための分養を徹底することが挙げられる。抗生物質のフマギリンを経口投与して治療する試みも行われ一定の効果を得たが、実用には到っていない(加納ら, 1982)。 |
参考文献 | .加納照正・岡内哲夫・福井晴朗 (1982): ウナギのプリストホラ症に関する研究 II.
フマジリンの投薬方法と効果について.
魚病研究,
17, 107-114. 小川和夫 (2004): 原虫病. 魚介類の感染症・寄生虫病(若林久嗣・室賀清邦編), 恒星社厚生閣, pp.285-338. |
写真2.H. anguillarum の胞子。
写真3.体側筋肉細胞内に形成されたシスト