または
(写真提供者:浦和茂彦(2)、宮嶋清司(1,3))
寄生虫名 | Kabatana takedai(武田微胞子虫) |
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分類学 | 微胞子虫門、微胞子虫綱、微胞子虫目 |
宿主名 | サクラマス (Oncorhynchus masou)、カラフトマス (O. gorbuscha)、サケ (O. keta)、マスノスケ (O. tshawytscha)、ベニザケ (O. nerka)、ニジマス (O. mykiss)、アメマス (Salvelinus leucomaenis)、オショロコマ (S. malma)、ブラウントラウト (Salmo trutta) |
病名 | 武田微胞子虫症 |
寄生部位 | 体側筋肉、心臓筋肉 |
肉眼所見 | 軽度の場合、外観的な異常はない。重度の場合、体表の陥没や心臓の肥大が見られる。体側筋肉や心臓筋肉に多数のシストが観察される(写真1)。シストは米粒状で、大きいものは長さ6 mmに達する。重篤寄生魚では、体側筋肉シスト数が200個を超える場合もある。 |
寄生虫学 | シストの内部で無数の胞子が形成される。胞子は長径2.8-4.9 μm、短径1.7-2.3 μmで卵形(写真2)。武田微胞子虫の発育は温度に影響を受ける。11℃では抑制されるものの、13-17℃では活発に増殖する。ただし、11℃から18℃に昇温すると発育は開始される(Zenke et al., 2005)。生活環は不明であり、魚から魚への伝播は起こらない (Fujiyama et al., 2002)。 |
病理学 | 感染初期の寄生虫集塊に対しては顕著な宿主反応がないが、やがて炎症細胞の浸潤、筋線維の変性、結合組織の増生が生じ、寄生虫はマクロファージにより貪食される (単核球性肉芽腫)。病巣部周端の結合組織に線維素が沈着して、病巣を囲むように類線維素変性が生じる(写真3)。体側筋肉組織でも同様に、炎症細胞の浸潤、筋線維の変性・断裂などが生じるが、顕著な結合組織の増殖は観察されない (粟倉, 1974; Miyajima et al., 2007)。感染魚は酸素低下に弱く、死亡することもあると言われている (浦和, 2006). |
人体に対する影響 | 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。 |
診断法 | シストをつぶしてウェットマウントで胞子を確認する。標本はスメアにしてUvitex 2B染色し、蛍光顕微鏡で観察する。染色された胞子は、紫外光で青い蛍光を発する。PCRによる検出法も開発されている(Miyajima et al., 2007)。 |
その他の情報 | 北海道の千歳川本流、千歳川第4貯水池、トキト沼、阿寒湖、サハリンのTaranay川、Bryanka川からのみ報告がある風土病である。夏季から秋季にかけて、千歳側河川水で飼育されているサケ科魚に発生し、問題となっている。1999年には、サクラマス放流種苗に本症が発生し、約10万尾の生残魚が殺処分された (Urawa, 1989)。水温を低く抑えることで本症の発生を低くすることは可能だが、魚の成長が鈍化するため、実用的ではない。 |
参考文献 | 粟倉 輝彦 (1974): サケ科魚類の微胞子虫病に関する研究.
水産孵化場研究報告,
29, 1-95. 浦和 茂彦 (2006): 武田微胞子虫症. 新魚病図鑑 (監修畑井喜司雄・小川和夫), 緑書房, p. 38. Fujiyama, I., S. Urawa, H. Yokoyama and K. Ogawa (2002): Investigation of the transmission stage of the microsporidian Kabatana takedai in salmonids. Bull. Natl. Salmon Resources Center, 5, 1-6. Miyajima, S., S. Urawa, H. Yokoyama and K. Ogawa (2007): Comparison of susceptibility to Kabatana takedai (Microspora) among salmonid fishes. Fish Pathol., 42, 149-157. Urawa, S. (1989): Seasonal occurrence of Microsporidium takedai (Microsporida) infection in masu salmon, Oncorhynchus masou, from the Chitose River. Physiol. Ecol. Japan, Spec., 1 587-598. |
写真3.心臓に形成された病巣(*)を囲むように、好エオシン性の
線維素(矢印)が発達している。
写真1.サクラマスの筋肉に形成された多数のシスト.
写真2.Kabatana takedai の胞子。