寄生虫名 Kudoa septempunctata(クドア・セプテンプンクタータ) 分類学 ミクソゾア門、粘液胞子虫綱、多殻目 宿主名 ヒラメ(Paralichthys olivaceus) 病名 未定 寄生部位 体側筋肉 肉眼所見 筋肉中にシストも作らなければジェリーミートにもならないので、寄生していることが肉眼的にわからない(写真1)。 寄生虫学 胞子は5〜7個(主に6個)の極嚢を持ち、幅が平均11.8(11.1-13.1)μm、長さが平均8.5(7.9-8.9)μm。生活環は不明。多毛類など、交互宿主の介在が推測される。 病理学 ヒラメの筋線維に細胞内寄生して発育するが、宿主反応はまったく観察されない。 人体に対する影響 食後数時間で一過性の嘔吐、下痢を主症状とする食中毒が発生する。ただし、軽症で予後は良好であり、重症化した例はない。冷凍(−15〜−20℃・4時間以上)または加熱(75℃・5分間以上)の処理で無毒化する。本種は粘液胞子虫で人間の食中毒の原因となった世界で初めての種類である(Kawai et al., 2012)。そのため、人間への毒性メカニズムなどまだ不明な点が多い。 診断法 筋肉組織のウェットマウントまたは塗抹標本をメチレンブルー染色して顕微鏡観察し、胞子の有無を確認する(写真2)。PCR法も開発されており、胞子形成前の時期と推測される種苗の診断に応用できる。ただし、ヒラメの筋肉にはジェリーミートの原因となるK. thyrsitesとK. lateolabracisも寄生していることがあるので、それらと区別する必要がある(Grabner et al., 2012)。養殖段階において、これら検鏡法とPCR法を組み合わせて検査することによりK. septempunctataに寄生したヒラメを排除し、市場に流通させないよう努力することが望まれる。検査法の手順については、大分県のガイドライン(下記参照)が参考になる。 その他の情報 平成23年4月25日に厚生労働省で開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒・乳肉水産食品合同部会において、人間の食中毒に関与することが報告された。その後、平成23年6月8日付けで「生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例についての提言」として、予防対策等について取りまとめられている(下記参照)。新種記載は韓国産養殖ヒラメから得られた材料であるが、国産ヒラメからも確認されており、どちらが多いかはわからない。食中毒となった事例は養殖ヒラメが多いが、天然ヒラメでもまったくないわけではない。 参考文献
Grabner, DS, Yokoyama, H, Shirakashi, S and Kinami, R (2012) Diagnostic PCR assays to detect and differentiate Kudoa septempunctata, K. thyrsites and K. lateolabracis (Myxozoa, Multivalvulida) in muscle tissue of olive flounder (Paralichthys olivaceus). Aquaculture, 338-341, 36-40.
Kawai, T, Sekizuka T, Yahata, Y, Kuroda M, Kumeda Y, Iijima Y, Kamata Y, Sugita-Konishi, Y and Ohnishi, T (2012) Identification of Kudoa septempunctata as the causative agent of novel food poisoning outbreaks in Japan by consumption of Paralichthys olivaceus in raw fish. Clin Infect Dis, 54, 1046-1052.
Matsukane, Y, H. Sato, S. Tanaka, Y. Kamata and Y. Sugita-Konishi (2010): Kudoa septempunctata n. sp. (Myxosporea: Multivalvulida) from an aquacultured olive flounder (Paralichthys olivaceus) imported from Korea. Parasitol. Res, 107, 865-872.
大分県(2011):ヒラメによる病因物質不明有症対策ガイドライン。6 pp http://www.pref.oita.jp/uploaded/life/239283_228789_misc.pdf#search='大分県 ヒラメ クドア'
横山 博(2011):ヒラメのクドアによる食中毒について。アクアネット、8月号(印刷中)。
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会(2011):生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例についての提言。9 pp.http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001fz6e.html
国立医薬品食品衛生研究所(2011):クドア胞子の顕微鏡検査法、2p.
http://www.nihs.go.jp/kanren/kudoa_houshi_20110711-01.pdf
または
写真2.Kudoa septempunctataの胞子。AとBはそれぞれ極嚢を6個と7個持つ生鮮胞子。Cはメチレンブルー染色像。
写真1.Kudoa septempunctataの寄生を受けたヒラメの肉片(上)と寄生していないヒラメの肉片(下)の比較。肉眼的には、まったく区別できない。