寄生虫名 Myxobolus koi(ミクソボルス・コイ)
分類学 ミクソゾア門、粘液胞子虫綱、双殻目
宿主名 コイ(Cyprinus carpio
病名 鰓ミクソボルス症
寄生部位
肉眼所見 稚魚の鰓に大きさ数mmに達するシストが1個または数個見られ、多量の粘液分泌、出血、鰓弁の部分的欠損などが起こる(写真1)。また、大型のシストと同時に1 mm以下の小型のシストが共存して観察されることが多い(写真2)。罹病魚は鼻上げや緩慢遊泳を示す
寄生虫学 シストの内部で多数の胞子が産生される(写真3)。胞子は流滴形で、長さ12-15 μm、幅5-9 μm、厚さ5-8 μm2個の極嚢の長さ5.9-7.4 μm、幅1.6-2.7 μm。生活環は不明。中間宿主の介在が推測される。
病理学 寄生体が鰓弁内で発育し、鰓組織を包み込んだ複雑な塊状物(シスト)を形成する。その結果、鰓の血管が閉塞されてうっ血し、鰓弁上皮の異常増生や棍棒化などの顕著な宿主反応が観察される(写真4)。0歳魚が初夏に罹患し酸欠に到ると死亡する(江草, 1988)。なお、大小2型のシストのうち致命的な影響を与えるのは大型のシストのみで、小型のシストはほとんど宿主に害がないと考えられている。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 シストをつぶしてウェットマウントで胞子を確認する。同様にコイの鰓に寄生してシスト形成する粘液胞子虫Myxobolus toyamaiおよびMyxobolus musseliusaeとは、前者が細長い洋梨型で2個の極嚢の大きさが異なること、後者がほぼ球形または卵型であることで形態的に区別が付けられる。標本はスメアにしてギムザ染色またはディフ・クイック染色する。
その他の情報 鰓蓋が押し上げられたように見えるために「頬腫れ」と呼ばれ、コイ養殖では古くからよく知られていた病気である。大小2型のシストから得られた胞子の形態および計測値に若干の差があるとして、江草(1988)はこれらを別種としたが、後に横山らは詳細な形態観察を行うと共に蛍光抗体法によっても同一種であることを示唆した(Yokoyama et al., 1997)。本症に対する駆虫薬などの治療法は開発されていないが、9月以降は自然治癒する。すなわち、夏場の感染ピーク時に酸素を十分供給し給餌量や収容密度に注意して酸欠による死亡を極力抑えることが対症療法として考えられる(横山, 2004)。
参考文献 江草周三 (1988): 原虫病. 改訂増補魚病学(江草周三編), 恒星社厚生閣, pp. 219-274.

横山 博 (2004): 粘液胞子虫病. 魚介類の感染症・寄生虫病(若林久嗣・室賀清邦編), 恒星社厚生閣, pp.339-352.

Yokoyama, H., D. Inoue, A. Kumamaru and H. Wakabayashi (1997): Myxobolus koi (Myxozoa: Myxosporea) forms large-and small-type ‘cysts’ in the gills of common carp. Fish Pathol., 32, 211-217.
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写真3.M. koi の胞子

写真2.鰓弁に形成された「小シスト」。

写真1.鰓に「大シスト」が形成されたコイ稚魚。

または

写真4.「大シスト」の形成された鰓組織