寄生虫名 Paradeontacylix grandispinusParadeontacylix kampachi
分類学 扁形動物門、吸虫綱、住血吸虫目
宿主名 カンパチ(Seriola dumerili
病名 血管内吸虫症
寄生部位 心臓から鰓にかけての血管内
肉眼所見 目立った外観症状は示さないが、重症魚では、鰓の血管が虫卵で閉塞することによる窒息死を起こし、口を開けて死ぬことがある。肉眼で原因寄生虫を検出することは困難である。鰓の検鏡により虫卵が多数みられる(写真1)。
寄生虫学 両種とも、血管内寄生性の吸虫である。P. grandispinus成虫は大半が入鰓動脈内に観察されるが、静脈洞と心室からも見つかる。一方のP. kampachi主に入鰓動脈内に観察されるが、静脈洞、心房、心室、腹大動脈からも寄生する(Ogawa et al., 1993)。虫体は柳葉状で、虫体の大きさはP. grandispinus2.0-3.3 mmP. kampachi4.7-8.1 mm(写真2)。生活環には中間宿主の存在が推測されるが、不明である。
病理学 虫卵が鰓の血管に充満して血行障害を引き起こす。重篤感染魚では、摂餌時などに急激に運動することによって窒息死することがある。病理組織学的には、鰓弁の毛細血管に集積した虫卵は、宿主組織によって被包されて結節を生じる。また、入鰓動脈では内皮細胞の増生による乳頭形成が観察される(Ogawa et al., 1989)。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 鰓組織を顕微鏡で観察すれば、血管内の虫卵を容易に見つけることができる。しかし、虫卵だけで2種の吸虫を識別することはできない。そのため、確定診断には血管内の虫体を確認する必要がある。P. grandispinus2-3 mm程度であるのに対し、P. kampachi5-8 mmと大きいため、区別が付く(写真3)。
その他の情報 一般に、0才魚で被害の大きい病気である。流行の季節性に関しては、魚体への侵入時期は9月頃で、11月には鰓に虫卵が集積され始め、翌5月には、本病による死亡は治まったという報告がある(Ogawa et al., 1993)。一方で、2-4月に中国から輸入されたカンパチにおいて、5-6月に血管内吸虫の寄生による死亡が見られたという例もある(Ogawa and Fukudome, 1994)。本病に対する対策は今のところ検討されていないが、摂餌時の急激な運動により重症魚が窒息死することがあるので、流行期には摂餌を抑えることで被害を軽減することができるかもしれない。
参考文献 Ogawa, K. and M. Fukudome (1994): Mass mortality caused by blood fluke (Paradeontacylix) among amberjack (Seriola dumerili) imported to Japan. Fish Pathol., 29, 265-269.

Ogawa, K., K. Hattori, K. Hatai and S. Kubota (1989): Histopathology of cultured marine fish, Seriola purpurascens (Carangidae) infected with Paradeontacylix spp. (Trematoda: Sanguinicolidae) in its vascular system. Fish Pathol., 24, 75-81.

Ogawa, K., H. Andoh and M. Yamaguchi (1993): Some biological aspects of Paradeontacylix (Trematoda: Sanguinicolidae) infection in cultured marine fish Seriola dumerili. Fish Pathol., 28, 177-180.

(写真提供:小川和夫)

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写真2.罹病カンパチから取り出したParadeontacylix kampachiの虫体

写真1.罹病カンパチの鰓の血管にみられる吸虫卵

写真3.大きい虫体がP. kampachi、小さいほうがP. grandispinus