寄生虫名 Thelohanellus hovorkaiテロハネルス・ホボルカイ)
分類学 ミクソゾア門、粘液胞子虫綱、双殻目
宿主名 コイ(Cyprinus carpio
病名 出血性テロハネルス症
寄生部位 皮下結合組織
肉眼所見 遊泳不活発、食欲不振となり、ついには死亡する。体表全体が発赤し、出血斑を呈する(写真1)。
寄生虫学 体表患部の粘液を採取して観察すると、多数の胞子がみられる(写真2)。胞子は卵型で長さ18.0-21.0(平均20.1μm9.5-10.510.2μm。1個の丸い極嚢を持ち、極嚢の長さ7.5-10.59.2μm、幅6.5-9.58.2μm。胞子本体の外側には膜状のエンベロープがあり、それを含めた全長は約24.4 μmである(Yokoyama et al., 1998)。生活環にはエラミミズ(Branchiura sowerbyi)(写真3)が関与し、その体内でオーランチアクチノミクソン放線胞子(写真4)に変態することが分かっている(Yokoyama, 1997)。
病理学 本寄生虫は皮下のみならず全身の結合組織内に寄生し、多核体を形成して発育する。成熟胞子が組織内に散逸すると、激しい炎症反応や出血、水腫、皮膚上皮の剥離などの病理変化が起こる(Yokoyama et al., 1998)。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 体表患部のウェットマウント検査、またはスタンプ標本をディフ・クイック染色して、胞子の形態を確認する。
その他の情報 1990年代半ば、新潟県内で養殖されていた23歳のニシキゴイ親魚に致命的な影響を与えた事例がある(Yokoyama et al., 1998)。本種は生活環が解明されて実験感染が容易に成立するため、日本国内で最も研究されている粘液胞子虫のひとつである。経口、経鰓、いずれのルートからも感染するが、発病に至るのは主に前者のケースであり、エラミミズを大量に摂取することが重要な発病因子であると証明された(Liyanage et al., 1998; 2003a)。対策として、養殖池の底質を泥から砂に変えることでエラミミズを駆除する環境操作法(Liyanage et al., 2003b)、ベントス食性魚の導入による生物学的制御法(Yokoyama et al., 2002)、抗生物質フマギリンの経口投与による化学療法(Yokoyama et al., 1999)が提案されている。
参考文献 Liyanage, Y. S., H. Yokoyama, H. Matoyama, H. Hosoya and H. Wakabayashi (1998): Experimentally induced hemorrhagic thelohanellosis of carp caused by Thelohanellus hovorkai (Myxosporea: Myxozoa). Fish Pathol., 33, 489-494.

Liyanage, Y. S., H. Yokoyama and H. Wakabayashi (2003a): Dynamics of experimental production of Thelohanellus hovorkai (Myxozoa: Myxosporea) in fish and oligochaete alternate hosts. J. Fish Dis., 26, 575-582.

Liyanage, Y. S., H. Yokoyama and H. Wakabayashi (2003b): Evaluation of a vector control strategy of haemorrhagic thelohanellosis in carp, caused by Thelohanellus hovorkai (Myxozoa). Dis. Aquat. Org., 55, 31-35.

Yokoyama, H. (1997): Transmission of Thelohanellus hovorkai Achmerov, 1960 (Myxosporea: Myxozoa) to common carp Cyprinus carpio through the alternate oligochaete host. Syst. Parasitol., 36, 79-84.

Yokoyama, H., Y. S. Liyanage, A. Sugai and H. Wakabayashi (1998): Hemorrhagic thelohanellosis of color carp caused by Thelohanellus hovorkai (Myxozoa: Myxosporea). Fish Pathol., 33, 85-89.

Yokoyama, H., Y. S. Liyanage, A. Sugai and H. Wakabayashi (1999): Efficacy of fumagillin against haemorrhagic thelohanellosis caused by Thelohanellus hovorkai (Myxosporea: Myxozoa) in coloured carp, Cyprinus carpio L. J.Fish Dis., 22, 243-245.

Yokoyama, H., Y. S. Liyanage and H. Wakabayashi (2002): A new strategy against myxosporean diseases: vector control in hemorrhagic thelohanellosis of cultured carp. Fish. Sci., 68 (Suppl. I), 825-828.
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写真1.体表が著しく発赤したニシキゴイ病魚。

または

写真4.エラミミズから放出された放線胞子虫。

写真2.病魚の体表に検出された胞子。

写真3.T. hovorkaiの交互宿主となるエラミミズ。